ミラノ発レザーグッズブランド「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」のポップアップイベント「ヴァレクストラ メトロポリス」が4月に伊勢丹新宿本店ザ・ステージで開催され、このイベントのためにサラ・フェレロ(Sara Ferrero)=ヴァレクストラ最高経営責任者(CEO)が来日した。彼女とは、4月前半にミラノで開催されたデザインの祭典「ミラノサローネ2019(MILANO SALONE以下、サローネ)」で会ったばかりだ。「サローネ」では、イギリス人建築家のジョン・ポーソン(John Pawson)がリニューアルを手掛けたミラノ本店を披露した。フェレロCEOは「東京でポップアップがスタートするから、それに合わせて家族と来日し、富士山や京都にも行くつもり」と興奮した表情で話していた。
フェレロCEOが「ヴァレクストラ」CEOに就任したのは2015年。それ以降、売り上げが就任当時の4倍になったという。彼女は大学でビジネスを学んだ後にMBAを取得し、金融コンサルティング企業のマッキンゼーでキャリアをスタート。その後、「フルラ(FURLA)」や「ジョゼフ(JOSEPH)」などで要職を務めたということで、彼女の経営手腕はもちろんのこと、ブランディングに効果的なコラボなどの人選やネットワークづくりもさすがだ。
昨年は、ミラノ本店のインスタレーションを手掛けた隈研吾との数時間のミーティングのためだけに来日するなど必要であればトンボ返りでも自ら現地に足を運ぶ。ブランドに対する情熱も相当なものだ。ブランドを発信するために協業するアーティストや建築家の選定も自ら行い、直接交渉する。選定するクリエイターもポーソンや隈のような大物から、気鋭のイギリス人若手アーティストのベサン・ローラ・ウッド(Bethan Laure Wood)までそうそうたる面々だ。CEOであり、妻であり、2児の母でもある彼女に、ポップアップやコラボレーションなどについて話を聞いた。
今回のポップアップショップのコンセプトは?
ジャコモ・ムーア(Giacomo Moore)の家具やニューヨークの蜃気楼がイメージソース。それをもとにムードボードを作ったの。蜃気楼と雲のシュールな空間にしたかった。バッグのシリーズごとに展示を区分けしているから、街を歩いているような感覚でショップを楽しんでもらいたい。あくまでも主役はバッグだけど。
WWD:今回は“セリエ エス”やスニーカーも登場したが?
“セリエ エス(SERIES)”は1960~70年代のイタリアのデザインを象徴した有機的でフェミニンなラインが特徴。当時は「オリベッティ(OLIVETTI)」のタイプライターなど全てが丸みを帯びたデザインだった。バッグの脇にはまるでえくぼのようなくぼみがあるのもポイントよ。スニーカーはミラノとロンドン、北京、東京で販売する。防弾チョッキに使用される丈夫な素材を使用した“ケイ ヴァル”バッグは日本限定で、仕事やジム用、旅行といろいろな用途があるから重宝すると思うわ。
下からスモークが出てきたが?
雲の雰囲気が出るでしょう。スモークがこのポップアップを特別なものにしてくれる。通常、この場所でスモークを使うことはできないけど、伊勢丹新宿本店は特例をつくってくれた。本当に感謝しているわ。これから店頭で、来てくれた日本人とコミュニケーションをとるつもり。とてもワクワクしているわ。日本人がどのような形や色を好むか理解したいから。
ずいぶん凝ったセットだが?
イタリアで制作して日本に送った。この設営は今朝3時から取り掛かって6時に完成したわ。商品のストックが置ける棚もあるしシートもある。ザ・ステージの場所は人通りが多いから、その喧噪を忘れるような快適な空間にしたつもりよ。女性だからついついいろんなことを考えて、期間限定のブティックでも“収納”や“シート”などと欲張りになるのよね。
ザ・ステージ終了後はどうするか?
再利用するつもりよ。海外の別の百貨店で使うかもしれないし、アレンジしてオフィスで使うかもしれない。昨年のミラノ本店の隈氏のインスタレーションだって、50%以上をアーティストや友人に販売したわ。テーブルの30%はオフィスで使用している。残りはアーカイブとして残したり、アップサイクルしたりして使うつもり。
販売する理由は?
無償で提供したらありがたみが分からないじゃない。とにかく、インスタレーションなどに使用した全てのものは、販売するか再利用して無駄にはしない。
「ヴァレクストラ」のフィロソフィーは?
1937年に設立されたブランドで、高品質でタイムレスであること。あと、カラフルで洗練されている点。50年代にデザインされたバッグが今でもベストセラーよ。半年ごとに替わるようなバッグじゃないの。毎日使えるし、長年使える。だから投資しても、毎シーズンバッグを買い替えるよりはずっといい。新商品に関してもタイムレスでずっと使えるものでなければならない。だから、シーズンごとに新作を出したりしない。じっくりとそのコンセプトに合っているかどうかを考えた上で、出せる時に出すというスタンスよ。
多くのラグジュアリーブランドとどのように戦うか?
「ヴァレクストラ」がどのようなブランドか、どのような価値があるのか、なぜ「ヴァレクストラ」なのかという点をいろいろな方法を使って伝えていくしかない。「ヴァレクストラ」がクリエイティブなブランドであることは気付いてもらえている。これからは、いろいろなストーリーを通じて、顧客予備軍にファンになってもらいたい。「ヴァレクストラ」は持つ人を引き立ててくれるバッグよ。主張せずにその人のスタイルを完成させる、それが「ヴァレクストラ」のバッグなの。